女は追われている。背後に確かな殺人鬼の気配を感じる。それも、複数の。
警察に頼る余裕などない。
電話している最中に。交番に辿り着いた瞬間の気の緩みの最中に。
彼女はきっと刺されてしまうから。
だから女は全速力で自宅の玄関に飛び込む。
扉の内に自分の脚が滑り込むのを待つつもりもない程の素早さで。
乱暴に勢いよく扉を閉め、同時に内鍵を掛けようとする。
しかし、ガツンガツンと音を立て、中々ドアが閉まらない。
狂乱した彼女は、何度も扉を内側に打ち付け続けた。
しかし、殺人鬼の凶器はまさに彼女の目の前に差し出されていた。
彼女はドアノブを手放した覚えなど無い。
しかし、興奮の末に。
女は殺人鬼がすり抜けられる程度の隙間を、扉に許してしまったかもしれない。
瞬間、女はあんなにも閉じなかった扉の閉じ方に気が付いた。
今からでも、今からでも閉めるのだ。そうして女は玄関扉を閉め、鍵を掛ける。
しかし、全ては遅かった。
女は振り返った先に居た殺人鬼に、複数回刺されてしまう。
そしてついに。悶え苦しみながら。女は死んでしまった。
ヒント1: 当出題は、番外編のラストを飾る『難易度:松』
……の果実である『松ぼっくり』級の難問。
しっかり難しいように作られているつもりだ。
推理をするなら、『殺人鬼が女の後ろに現れた状況の解明』。
残酷な人殺しのトリックを、アナタは解き明かせるだろうか?
ヒント2: 状況を整理しよう。
女自身が開くまで、自宅の玄関は封鎖されていた。
つまり玄関扉から、また他開放部からは何人たりとも出入り不可能だったと考えてよい。
ガス等の気体や液体はその限りでは無いだろうが。
そして、女は玄関から入り、すぐさま扉を閉じる動作を行った。
この時、女は扉を完全に閉ざすべく、何度も扉を打ち付けている。
その後、女は何とかして玄関扉を施錠。扉の封鎖を行った。
しかし殺人鬼は、振り返った女の眼前に、その姿を現すのだった。
追加真実3: 物語開始以前から、殺人鬼が女の自宅内に存在していることはない。
ヒント4: ここまで来たら、殺害の瞬間以外の情報を再確認しても良い頃でしょう。
例えば、『複数の殺人鬼に追われている』。
『警察に向かっても、刺されてしまう』などだ。
ヒント5には謎解きに決定的な情報を載せておきます。
ヒント5: 殺人鬼がヒト型だと限定されていない。
殺傷力のある条件に合う存在を想定しよう。
謎が解けるのも、もうすぐだ。
殺人鬼は蜂。死因は壱型アレルギーによるショック。