ある人間の家に住む事にしたハエトリグモ。
外には色々な大きさの蜘蛛や昆虫を見たが、この家には蝿しかいない。蝿を一匹食べて空腹を満たす。当分はお腹いっぱい。
翌日、蜘蛛は自分と同じ種類のハエトリグモを目にした。そのハエトリグモは飢えている様子もないし、この家には十分な数の蝿が居る。獲物を取り合う必要も無いだろう。
前脚を動かすと、目の前のハエトリグモも前脚を動かした。礼儀のなっている奴だ。
その翌日、人間の家主が家の掃除をして家具の配置換えをしている。掃除をしたら蝿が少なくならないだろうか? 少し心配だ。
人間に見つからないように窓際でじっとしていると、あのハエトリグモが隣にいた。人間が寝るまで一緒に居よう。
掃除が終わり、ゴミ捨ても終わったようだ。人間は就寝準備に入っている、もう少し、二匹でじっとしているか。
――自分は眠っていてしまっていたようだ。朝日が昇っている。あの一緒に居たハエトリグモは隣に……いない。
家をくまなく調べてみる。時間をかけて探してみる。でも、いない。死体も無い。いや、死ぬはずがない。自分は昨晩人間が眠るまでを見ていた筈だ。
ゴミは捨てたばかり。だから、ゴミと一緒に捨てられてはいない。でも、明らかに家に居ない。さっきまで一緒に居たのに。
最初に奴と会った場所に行ってもいない。思い出の場所が、少し、悲しい。
一匹になってしまった。あのハエトリグモは、自分の幻想だったらしい。それとも、悲しいのは自分一匹だけで、あいつは悲しいと思ってくれなかったのか? だからいなくなったのか?
蝿が一匹残っていた。食べる。腹を満たす。今日も、奴は見当たらない。
ヒント1: もう一匹のハエトリグモは、主人公を残して家を去った。そういうことにしておこう。
ヒント2: 夜には確かに居たのに、朝になったら消えてしまう。夜と朝で、何が違う?
ヒント3: 蜘蛛である主人公には、『ソレ』が作り出す『像』の真偽が判別できなかった。
主人公が眠った場所。人間が行った部屋の模様替え。
あのハエトリグモは、主人公の幻想だったらしい。
鏡や窓に反射していた自分の像を見ていたが、鏡は人間が移動した。